塔の中では、頭上まで続く螺旋階段が、頂上へ向けて真っ直ぐに聳え建っていた。ただ一つ残された螺旋階段を、雑種犬、ログ、男の順番で駆け上がった。その間も、男は話し続ける。

 ログは階段を駆け上がりながら、一度だけ、恨めしそうに男を振り返った。

 呼吸の乱れ一つない男の姿は、どこか現実味が薄くも思えた。この男は生きていない人間なのかと、ログは、そんなつまらない事を考えてしまった。

「その神様とやらにも、勿論子共がいるんだそうだ。子育てってのは、どの世界も大変なもんなんだなぁ。俺はさ、最後にあいつにこう言ったんだ。もし、俺の可愛い娘が本当に困った時には、手助け出来るよう取り計らっちゃくれないかね、ってさ。あいつは、微笑むだけで何も答えなかった。望みが変わるようなら呼んでくれといって、消えちまったんだ」

 塔の外から、世界が崩れていく音が木霊していた。この螺旋階段も、いつまでもつのか分からない。

 螺旋階段から響く足音は、一組だけだった。ログは、螺旋階段を駆け続ける雑種犬の後ろ姿へ目を向けた。犬の足は、螺旋階段には触れていなかった。見えない壁に阻まれているように、犬は階段の僅か上の空間を踏みしめていた。後ろを走る白髪の男も同じで、彼の足は螺旋階段よりも僅かに浮いた宙を蹴っていた。

 身体はあるのに、まるで幽霊みてぇだな。

 ログがそう思案していると、男が横顔でこう続けた。

「あいつは――ナイトメアは、エルを助けるつもりなんだよ。発動する為に必要な記憶を持っている魂を、ちょいと貸し寄越してくれと頼みに来てな。俺も同席して話を聞いた時は、まぁ驚いたね。奴が帰った後で、俺の方で神様とやらにお願いして、それで俺とポタロウが一時的にこっちに戻された訳だが」