「俺は昔から『神様』なんて信じていなかったんだが、いやはや、本当にいたんだなぁ。実際死んでみると、誰もいない花畑にいてよ。俺は沢山の人間を殺しちまっているから、すぐには妻のいる場所までは辿り着けないんだとかで、ポタロウが、馬鹿みたいにずっと俺を待ってくれていてな? こん時ばかりは、あの馬鹿犬が忠犬に見えたわぁ」
「――ッこんな時分に、昔話かよ」
「煩ぇ。まぁ聞けよ、小僧」

 男は前方を見据えたまま、器用にログの後頭部を軽く叩いた。

「死んだ世界にも色々あってな、神様ってのも沢山いるらしい。俺が会ったのは一人だけだったが、光っている大きな奴でよ。人生の役目を終え者には、何でも一つだけ望みを叶えてやるんだと。ま、気のいい神様だったぜ。酒を飲み交わしながら、あいつは俺の望みが決まるまで付き合ってくれてなぁ」

 塔の側面は、既に半分以上が剥がれ落ちてしまっていた。側面に絡みつく電気ケーブルや機械の一部が剥がれた場所から、塔本来の輝かしい装飾が覗き始めているようだったが、ログは目を向けず、塔へと駆け込んだ。