男はクロエを片腕に抱えたまま、サンダルを履いた足で大地を踏みしめた。

「さ、これで、あいつが喰える分の過去は揃った。行くぞ、小僧。俺達は仮の身体を手に入れているとはいえ、亡霊みてぇなもんだからな。お前が動かねぇと、ナイトメアと合流する事も叶わないぞ」
「おい、待てよ。一体どういうことだ」
「話す時間が勿体ない。とりあえず走れ。そうしたら、俺が勝手に喋ってやるよ」

 ログは舌打ちし、痛む身体に鞭を打って走り出した。雑種犬は、これを散歩と勘違いしているのか、彼の隣を陽気に駆け始めた。

 ホテルマンに打たれた場所が悪かったのか、すぐに呼吸が苦しくなった。

 身体が非常に重く感じ、気を抜くと足ももつれたが、ログは歯を食いしばって走り続けた。どうにか間に合いますようにと、そばから聞こえたクロエの声に焦りを覚えていた。

 苦しむログの隣には、クロエを抱えた男がサンダルを履いただけの足で走っていた。かなりの速度で走っているはずだが、男は汗一つかかず、何でもないような顔で「実はさぁ」と語り始めた。