それは前触れもなく起こった、背中が反り上がってしまうほどの衝撃だった。

 地面に伏していたログは、それを背中に受け止めた途端、短い呻きを上げて再び、堪らず地面に沈んだ。ようやく四肢の痺れが抜けたばかりだというのに、背骨への不意打ちは反則ではないかと、ログは目尻に涙を浮かべ、声にならない呻きをこぼした。

 ログは、しばらく激痛にのたうち回った後、元凶を睨みつけた。

 そこには、黒猫クロエの隣で、のんびりと小首を傾げる中型の雑種犬がいた。毛色はベージュで、犬としての忠誠心や闘争心を全く感じさせないその顔は、ただの阿保犬にしか見えない。

 雑主犬はログと目が合うと、反対の方向へと首を傾け「ふわん?」と頼りない声を発した。甲高い声は猫の鳴き声にも似ていて、この大きさでその声はない、とログは片頬を引き攣らせた。

 というか、こいつ、本当に犬か?

 見れば見るほど、気の抜けるような阿呆な顔立ちというのも珍しい。気のせいか、鍋で温めるタイプの缶のシリーズ・スープにプリントされている、妙な顔だけのイメージ・キャラクターが脳裏に過ぎった。

 犬は何を勘違いしたのか、両方の耳を立てて尻尾を振ると、ログの顔を激しく舐め回し始めた。

「やめろッ、この……!」

 ログが右手で雑種犬を追い払おうとした時、頭上から、何かが降ってくるような落下音が耳に飛び込んで来た。


「やめんかポタロウ!」


 恐ろしい肺活量の野太い大声が、頭上から降り注いだ。

 ログが目を向けるよりも速く、彼の顔の目先数十センチの距離に人間が着地し、サンダルを履いた大きな足がコンクリートを破壊した。勢いよく踏み砕かれたコンクリートの破片と風圧が、ログの顔面を打った。