ログは、状況を忘れて話していたと知り、戸惑いを覚えてクロエから目を逸らした。こんなに自分の事を語ったのは、産まれて初めての事だ。

 不思議な猫だ。クロエを横目に見やり、ログは思わず苦笑した。

「お前、なんだか母ちゃんみてぇな猫だな」
『あら、私は皆のお母さんでいるつもりよ。子育ても終えて、すっかり年を取ってしまうと、若い子達が自分の子のように、可愛く見えてくるものなのよ』
「なるほどな」

 ログは、敵わないなと頭を振った。

「女ってのは、どれも強かなんだな」
『あなたも、子共を持ってみれば分かるわ』

 後頭部に鈍い重みを覚え、ログは「なんだ?」と違和感に眉を顰めた。

 得体の知れない気配を身体が敏感に感じ取っているのか、首の後ろが、チリチリと焼けるような感覚が込み上げる。鈍い耳鳴りが鼓膜を低く叩くような、気圧の変化も覚えた。

 クロエが頭上を仰いだ。エメラルドの濡れた瞳を空に向けたまま、前足を口許へとあてて、まるで泣き顔で微笑むような顔をして、小さく呟いた。


『……間に合った。ああ、嬉しいわ、ナイトメア。これで本当に、私の望みが叶うのね』


 一体、この猫は何を言っている……?

 ログが半ば強引に身体を起こそうと力を込めた瞬間、上空から降ってきた何かが、彼の背中を強打した。