「お前、あの野郎を知ってんのか? そもそも、あいつ、あのガキの一体なん――」

 ログは反射的に身体を起こし掛けたが、首の後ろを中心に激痛が走り、苦痛に顔を歪めて言葉を切った。

 あの野郎、加減もせずに打ち込みやがって……。

 憎たらしい顔を思い出し、ログは舌打ちした。しかし、ふと、中途半端な結果はホテルマンらしくないような気がした。改めて考えてみると、まるで、もしもの時の為の時間稼ぎの仕打ちにも思えて来る。

『ナイトメアは、終わりのない闇の象徴のようなモノかしら。うちに来た時から、あの子の中にいたわ。私達は、『死に抱かれる者の夢』の狭間で、短い間だけ会う事が出来たの』

 クロエは話し続けた。

 ログは、手足のしびれが徐々に弱まっていくのを確かめた。まだ身体は起こせそうにないが、後頭部に重い痛みは続いているものの、気分はだいぶましになって来た。

「お前、ホテル野郎の事を誰よりも知っていそうだな。俺に、一体何をして欲しいんだ?」
『叶う保証はないけれど、彼は先程、あなたの身体に『力』を直接入れて、可能性にかけてアチラ側との道を繋げた……まだ痛むでしょうけれど、少し辛抱してね。後は、望む結果が返ってくるよう、ここで待つしかない…………その間、あなたが強く心動かされた『過去』を、私に話し聞かせて欲しいの』

 待つしか出来ないというのだろうか。

 望む結果が得られなかったら、俺は、悠長に猫と喋っていた事を、きっと後悔するだろう。

 けれど、まだ身体の自由が利かないのも事実で、神に祈るように待つ事に対して、クロエが微塵の疑いも抱いていない姿に負けて、ログは彼女の言葉に従う事を決めた。

 ログは、自分の過去をぽつりぽつりと猫に語り聞かせた。

 父親と妹がテロに巻き込まれて死に、復讐のため軍に入った事。特別部隊の候補生として一般過程から参入し、特殊な子供達に混じって、スウェンやセイジと出会った事。その後、母親もすぐに死んでしまった事……