何故なら、ここでの出来事は、現実世界ではない『仮想空間内の出来事』として片付けられてしまうのだから。
身体の奥底から沸き上がる強い意思が、離れ掛けていたログの意識を引きとめた。
ログは、我知らず息を止めると、見える景色を認識する為に目を凝らした。僅かばかりに戻った身体の感覚を噛みしめ、先へと手を伸ばし、土埃を握り締める。
朦朧とした五感が、この世界に取り残していってしまう少女の面影を探した。
ああ、俺はきっと、お前がいないと淋しいんだ。
ログは前触れもなく、曖昧だった己の心の答えに気付いた。ずっとそこにいればいい、そう思った一時を彼は今更になって思い出せた。隠された世界の謎や神秘など、理解したいとも思わない。助ける為にどうすればいいのか、いつも必死に考えるばかりだ。
その時、ログは、感覚の鈍くなった手に何かが触れるのを感じた。
それは、エルが連れていた黒い老猫だった。
クロエが手に頭をすり寄せ、淡いエメラルドの美しい瞳をログに向けた。
瞳を伏せる猫の顔が、こんなにも美しいと感じたのは初めてだった。全てを受け入れ、見返りなく愛する母親の眼差しを思い起こさせた。
――大丈夫、きっと、まだ間に合うわ。
そんな幻聴が聞こえた。まるで、猫が話しかけているようだと感じ、ログはそう考えてしまった自分を嗤った。
ふっと笑う吐息をこぼした拍子に、首から背中までの神経が痛んだ。
不意に、ログの五感から全ての音が消え去った。それは数秒の間の出来事だったが、凶暴な風が、一瞬、柔らかくなったような気がした。
ログの頬に暖かい風が触れ、穏やかな温もりが、幻聴を伴って彼の耳朶に触れた。
唐突に、亡霊のように現れた一つの光景が、ログの視界の端をゆっくりと通り過ぎていった。
身体の奥底から沸き上がる強い意思が、離れ掛けていたログの意識を引きとめた。
ログは、我知らず息を止めると、見える景色を認識する為に目を凝らした。僅かばかりに戻った身体の感覚を噛みしめ、先へと手を伸ばし、土埃を握り締める。
朦朧とした五感が、この世界に取り残していってしまう少女の面影を探した。
ああ、俺はきっと、お前がいないと淋しいんだ。
ログは前触れもなく、曖昧だった己の心の答えに気付いた。ずっとそこにいればいい、そう思った一時を彼は今更になって思い出せた。隠された世界の謎や神秘など、理解したいとも思わない。助ける為にどうすればいいのか、いつも必死に考えるばかりだ。
その時、ログは、感覚の鈍くなった手に何かが触れるのを感じた。
それは、エルが連れていた黒い老猫だった。
クロエが手に頭をすり寄せ、淡いエメラルドの美しい瞳をログに向けた。
瞳を伏せる猫の顔が、こんなにも美しいと感じたのは初めてだった。全てを受け入れ、見返りなく愛する母親の眼差しを思い起こさせた。
――大丈夫、きっと、まだ間に合うわ。
そんな幻聴が聞こえた。まるで、猫が話しかけているようだと感じ、ログはそう考えてしまった自分を嗤った。
ふっと笑う吐息をこぼした拍子に、首から背中までの神経が痛んだ。
不意に、ログの五感から全ての音が消え去った。それは数秒の間の出来事だったが、凶暴な風が、一瞬、柔らかくなったような気がした。
ログの頬に暖かい風が触れ、穏やかな温もりが、幻聴を伴って彼の耳朶に触れた。
唐突に、亡霊のように現れた一つの光景が、ログの視界の端をゆっくりと通り過ぎていった。