悔しさが込み上げたが、成す術もない諦めが、ログの心を落ち着けてしまうのも早かった。

 ただの悪夢だと思えば、気持ちは少しでも軽くなってくれるのだろうか。この世界の全てが、結局は偽物なのだから。

 いいや、それでも、きっと俺は忘れられないに違いない。

 ログは、エルとの出会いを思い返した。相変わらず可愛げのないガキだと、遠ざけようと意識すればするほど、彼女の姿を目で追ってしまう自分がいた。どうしてなのだろう。これまで出会った人間と、彼女の間には、どれほどの差もないはずなのに。

 違っている事と言えば、小さな女の癖に、口が悪くて乱暴で、負けず嫌いの癖に泣き虫で、そのうえ厄介なほど体術に長けているという事だろうか。

 それなのにログは、セイジが優しく慎重に彼女を守る姿を、スウェンが次第に仲間として彼女を迎え入れる決断をした事を、誰よりも一番に誇らしく感じていたのだ。
 
 長いようで短いこの世界の出来事も、普段見る夢のように、目覚めと同時に薄れていってしまうのだろうか。

 現実世界に戻ったら、もう何も感じなくなってしまうのか?

 とうとう動かせる事も出来なくなった眼球から、光りが遠のき始めた。ログは、戦場で死にかけた日の事を思い起こした。目の前が段々薄暗くなり、聴覚も遮断され、身体の感覚が失われていくさまが、あの頃と似ていた。

 あの時は、どうだっただろう。

 確か俺は無線を握りしめていて、諦めるなというスウェンの怒鳴り声を聞いていたのだ。あの時、もう俺には左腕がなかった。スウェンは、無事だった六人の仲間と入れ違うように、たった一人で激戦区に飛び込み、死にかけたログを細い体で背負って生還したのだ。

 もはや誰もいない荒廃したコンクリートの冷たさを頬に感じながら、ログは静かに考えた。

 結局これで、何もかも元通りなのだろう。目が覚めれば、スウェンとセイジがいて、時間が経てば、アリスとマルクの身柄も本部に届けられるに違いない。