思えば出会った時から、エルはいつも、目を合わせるたび怒った表情以外は返してくれなかった。こちらが気遣う言葉と態度を取っても、不似合いな大人びた強がりを見せ、子供じみた見栄を張って挑んで来る。

 気取らず小さく微笑する顔は、なんだ、想像していた以上に可愛らしい女のものじゃないか。

 ログは、そんなことを思った。

 どう頑張っても、彼女が少年に見える事など、ありはしないのだから。


 仕方ないじゃないか。理由は分からないが出会った時から、この目が、彼女の姿を追い掛けるのだ。

 ここへ来るまで何度、目を閉じるたび、猫に向かってはにかむエルの微笑みを思い起こしたか分からない。スウェンがいてセイジがいて、ホテルマンがいて、当然のようにエルもいる――そんな何気ない光景を、何度思い浮かべただろうか。


 確信に近い予感が一つあるとするならば、彼女は、お別れをしてしまうつもりなのだろう。

 訳も分からないこの世界と、異界の存在である男を一人連れて、彼女は、ログの元を去ってしまうつもりなのだ。

 しゃがみ込んだまま、エルが、また泣きそうな顔に笑みを浮かべた。

「ごめんな、ログ。俺は多分、お前のこと、結構好きだったよ……どうか、クロエをお願い」

 勝手に約束を押しつけるんじゃねぇよ。

 そう呼び止めたいのに、ログの喉は動いてくれないままだった。その間に、エルは勝手に話を続けてしまう。