「やれやれ、呆れました。一発で沈められるかと思いましたが、人間にしては恐ろしく強靭な精神力です」

 ログは、沸騰したお湯に投げ込まれたかのように、頭の芯がぐらぐらと揺れるのを感じた。言葉を発したいが、打ちどころが悪かったのか、舌の筋肉まで痺れ出して意識を保つのがようやくだった。

「無理をされない方がいいですよ。苦しみが長引くだけですので」
「……ッ」
「ええ、そうですよ。貴方がおっしゃる通り、一組ずつ連れていく必要はなかったのです。もはや周囲を覆い尽くす闇は、物質世界に在るべきモノ達に対しては、全て完全な『出口』として立派に機能しています。そこから落ちてしまえば、問題なくここから出られるのです」

 とてもシンプルで簡単でしょう?

 ホテルマンはしゃがみ込むと、ログの顔を眺めてニッコリと微笑んだ。

「ですが、面倒だったので別れてもらいました。『親切なお客様』も気付いたようでしたが、彼は手負いの人間を抱えていましたし、きちんと落ちてくれましたよ。最後は貴方が猫ちゃん様を連れて、この世界を出て行ってくれさえれすれば完璧だったのですが、――どうも納得しそうにもないと思いましたので、こうして強硬手段を取らせて頂きました。『親切なお客様』といい、貴方といい……人ではない『私』を信用する方が悪いのですよ」