ログは、ぐらぐらと揺れる焦点の定まらない瞳を持ち上げた。立ち尽くすエルを見上げ、それから、奥歯を噛みしめてホテルマンを睨み付ける。ほぼ急所を打ち込まれた全身は痺れ、もはや自由に動かす事も叶わなかった。

「――ッ、この野郎」

　吐き捨てるログを、ホテルマンの冷たい眼差しが見降ろした。

　世界の崩壊の音が、巻き上がる風と共に煩く鼓膜を叩いて来る。『エリスの世界』を取り巻く闇が、不意に動きを止めたかと思ったその時、獣の咆哮を上げて崩壊を加速させた。

　いよいよ、最終崩壊のカウントダウンが始まったのだ。

　半分以上崩れ落ちてしまった塔の開けた階から、眩い光りが一斉に放たれた。その光は、鐘の音のような巨大な音を発しながら空間内を震わせた。音の振動に伴い、『エリスの世界』を覆う朽ち果てた人工夢世界の表皮が剥がれ出した。

「いよいよ、我々の『エリス』が出て来てくれたようですねぇ」

　眩い光に少し目を止めたホテルマンは、苦悶するログの姿を思い出したように視線を戻した。