彼はスウェンの判断には従うようだが、やはり、最後までホテルマンが隠している何かを警戒しているようだ。迷子になる癖に、勘だけは鋭いんだなと、そんな場違いな事を思ってしまった。

 エルは、ログとの思い出を振り返った。喧嘩ばかりしていたが、こうして思い返してみると、初めて友達が出来たようで、楽しかった気もする。彼が本当に一人の女性として、エルを意識してくれていたのかは知らないが、彼に女として気遣われた事は、不思議と嫌ではなかったとも思い出した。

 ああ、彼は不器用だけど、きっと優しいのだろう。

 そう感じて、エルは柔らかな微笑を浮かべた。目先でログが、驚いたように目を見開く。


 貴方に出会えて良かったと、エルはそう思った。

 ログの警戒心が解けた一瞬、彼の背後には死角が出来ていた。彼の背後に音もなくホテルマンが現れたのを見て、エルは、二人に向かって微笑みかけた。


「今まで、ありがとう」

 瞬間、身構えていなかったログの後頭部に、ホテルマンの強烈な手刀が振り降ろされた。

             ※※※

 呻きと共に崩れ落ちたログは、自分の身に何が起こったのか、しばらく理解出来ず地面の上を転がった。