まずはセイジがアリスを抱え、ホテルマンの後をついて歩き出した。彼は不安な表情で何度か振り返ったが、スウェンが一つ肯いて後押しすると、「後で会おう」と残し、ホテルマンと共にビルの角を曲がって見えなくなった。

 それから数分も経たないうちに、ホテルマンは一人で戻って来た。

 ホテルマンは、興味もなさそうな瞳でスウェンをチラリと見やり、それから、足の自由がきかないマルクを見降ろし、唐突に取ってつけたような笑顔を浮かべた。

「さぁさ、今度は『親切なお客様』と『そちらのお客様』の番ですよ。それでは参りましょうか。この世界が完全に崩壊してしまうまで、時間は残されておりませんので」
「仕方がないね。僕は力仕事が苦手だけれど」

 スウェンが答え、マルクの片腕を担いだ。

 紹介された時から、ホテルマンに対して良い印象を受けていないらしいマルクが、ホテルマンの胡散臭い笑顔を訝しげに見つめた。

「……信用ならない顔だ。君は、偽善者として取り繕う事も出来ない詐欺師のような男だな」
「おやおや、それはすみません。どうも、私は人の好かれない顔を作ってしまったようでして。生憎、他の顔を用意する事は出来ないものですから、我慢して頂くしかないでしょうねぇ」

 歩き出したスウェン達の姿も、しばらくすると、、ビルの角を曲がって見えなくなった。