戻って来て早々、ホテルマンは遅れた事への謝罪よりも先に、『出口』の安全性が確認出来た事を告げた。マルクはホテルマンと初対面だった為、スウェンはホテルマンについて「この世界の案内人のようなもの」と簡単に説明した。

「それにしても、ちょっとゆっくりだったじゃないか。僕らは随分待たされたような気がするけど」
「ええ、少し用事がありまして。――良い知らせを待っていたのですが、どうやら徒労損に終わりそうです」

 ホテルマンが微かに眉根を寄せ、演技臭く残念そうに微笑んだ。

 エルは、クロエを抱き寄せた。スウェン達に囲まれるホテルマンが、彼らの間からエルを見つめ返す。私情のない異界の住人の瞳に、エルは、ホテルマンの考えを察した。彼女が従属させる闇が、彼女の脳裏で、仮面の下から覗く唇にそっと指を押し当てた。


――大丈夫、貴女様は何もしなくてよろしいのです。用済みとなった彼らのお相手は、私が致しましょう。


 そうだね。関係のない人間には、全て出て言ってもらわなければならない。

 クロエを強く抱きしめ、エルは、その温もりを刻み付けるように胸と頬に押し付けた。別れは寂しいが、約束を果たさなければならない。

 どうか、君は少しでも長く生きて……

 ホテルマンが、スウェン達にニッコリと微笑みかけた。彼は、こちらの世界に肉体のまま入り込んでいる人間を『外』に帰す為の方法について、精神体で入り込んでいる人間と一緒に『出口』を通ってもらうと説いた。

「道は不安定です。私が出来る限りフォロー致しますが、安全性を最優先に考えて、一組ずつ脱出して頂きます」