「――クロエとの旅は、そろそろ終わりかな。オジサンの遺言で、クロエは、唯一オジサンを嫌っていなかった親戚の人が、最期まで面倒を見てくれる約束になっていたんだ。だから、そろそろ帰してあげなくちゃいけないかなって、そう考えてもいて……」

 オジサンの家で過ごした日々が、エルの脳裏を過ぎっていった。クロエを誰かの家に帰す決心なんて、この状況でなければつかなかっただろう。せめてもの償いに、クロエには、最期は苦労の無い暖かい家で過ごさせてやりたいと思っていた。

 エルは、こちらを見つめ返したクロエと目が合った瞬間、心が揺れそうになって、思わず抱き寄せて涙を堪えた。


 君に話し聞かせたい事が沢山あるのに、もう、時間がないんだね。
 
 多くの事を望んではいけなかったのに、初めての友達も、仲間も、短い間だったけど嬉しかった。その気持ちをクロエに教えてあげたいけれど、スウェン達の前では、彼女との内緒話も出来そうにない。


 その時、エルはスウェンに「エル君」と呼ばれて、顔を上げた。

「エル君、待って。ストップだよ」
「ストップ? 何が?」
「猫ちゃんに話すのもいいけどさ、まずは僕達に話して聞かせてよ。――僕は君の事を、仲間として、もっと知りたいと思うんだよ」

 スウェンが頬をかきながら、はにかんだ。先程の視線は、どうやらお喋りをしたいという意味だったらしいと察して、エルは「なるほど」と肯いた。