エルは膝頭を頬にあて、夢世界を食らい続ける闇を見やった。『仮想空間エリス』は、空も大地も周囲から崩壊し狭まっていた。『宿主』である人間のエリスが亡くなって随分と過ぎているので、恐らく、本物の『エリスの夢世界』はとても小さくなっているだろう。

 機械である『エリス・プログラム』は破壊したが、まだ求めている『エリス』は出現していない。

 人工夢世界がどのぐらい剥がれ落ちれば、『エリス』に会えるのだろうかと、エルは静かに考えた。きっと、ホテルマンはそのタイミングを知っているはずだから、その前にスウェン達を『外』に帰そうとしているのだろう。
 
「『おじさん』とやらと別れたのは分かったが、お前は今、何してんだ?」
 
 唐突にログに問われて、エルは我に返った。

 エルは、膝頭に顎を乗せて訝しげに彼を見た。ログは、心底疑問でならないという仏頂面をしていた。こいつは当初の自己紹介を忘れてしまったのだろうか、とエルは呆れつつ「だから」と答えた。

「クロエと旅をしているんだってば。俺は身寄りがないし、成人しているからオジサンの遠い親戚の世話になるつもりもないし。ああ、でも、クロエは――」

 遅れて思い出し、エルは、隣で毛繕いを続けるクロエへ目を向けた。