上の階に出ると、白い紙吹雪が世界を染め上げていた。一枚一枚が花弁のように宙を漂い、灰となっては消えていく。

 鼻を啜ったエルは、ログの脇に抱えられたまま、その光景に見惚れて泣き止んだ。『エリス・プログラム』の破壊が既に終わっているという事実に遅れて気付き、眼前に広がる景色を綺麗だと思った。

 反対側の腕に抱えられていたマルクが、エルからそっと視線をそらし、ちらりと呟いた。

「……子共が、そんなに我慢をするものじゃない」
「……俺、二十歳になったんだ。もう、子供じゃないよ」
「……そうか、二十歳だったか。私はてっきり――」

 彼は言い掛けて、先程のやりとりを思い出して言葉を切った。日本人にしても幼過ぎないか、という感想を口にしようものなら、また泣き出されて怒られそうな気がする。

 女の子に泣かれるのは、特に苦手だ。

 マルクは、自分を必死に引き上げようとしてくれたエルの、必死な表情を一目見てからずっと女の子だと分かっていた。