一瞬の浮遊感の直後、着地した振動でログの太い腕が腹部に食い込み、エルとマルクが「ぐっ」「おぇっ」と呼気を吐き出した。
二人の人間を両脇に抱えたまま、ログは無事に螺旋階段へ着地すると、後ろへは目もくれず地上へ向けて駆け上がった。エルは彼の脇に抱えられながら、地下空間が小さく遠くなってゆくさまを見送った。
エルは、唇を噛みしめたが、――堪え切れず涙が溢れた。
本当は分かっていたのだ。どんなに鍛えていたって、限界がある事を。
涙が、次から次へとこぼれ落ちるたび、エルは過ぎ去った過去を思い出した。
年老いたポタロウが難産で、結局は、仔犬もポタロウも助けられなかった事。オジサンの病気に気付けたのは手遅れになった後で、エルには、彼の痛みを和らげてあげる力もなく、オジサンは苦痛と闘いながら、そうして最期には、エルのために笑って死んでいった事……
ずっと、助けられてばかりだった。誰も、助けてあげられなかった。
エルは、無力な自分が悔しくて、ログの腕を掴んで、とうとう泣き出した。うわ言のように「ごめんなさい」と繰り返しながら、これまで胸の内に溜め込んでいた、もう届く事のない言葉が口から溢れ始めた。
ポタロウ、オジサン、ごめんなさい。
謝りたかったのに、もう謝る事が出来ないのが苦しいよ。いっぱい迷惑かけたのに、それでも笑っていてくれ、大好きだって言ってもらえてとても嬉しかったのに、俺、何もしてあげられなかった。
俺を置いていっちゃ嫌だ。俺を一人きり、この世界に置いて行かないで。
ごめんなさい、寂しくてクロエを置いて行く事が出来なかったの。オジサンの家の人が、きちんと面倒を見てくれるって言ってくれたのに、離れ離れになってしまうのが怖くて、俺、クロエを連れて逃げ出してしまったんだよ。
俺はもう子供じゃないから、一人でも生きてゆけるって、オジサンとそう約束したのに、俺、どうしてもクロエを置いていけなかったんだ――……
エルは、オジサンが死んで初めて、とても悲しいという想いのままに、頼りない少女の細い声で泣いた。
二人の人間を両脇に抱えたまま、ログは無事に螺旋階段へ着地すると、後ろへは目もくれず地上へ向けて駆け上がった。エルは彼の脇に抱えられながら、地下空間が小さく遠くなってゆくさまを見送った。
エルは、唇を噛みしめたが、――堪え切れず涙が溢れた。
本当は分かっていたのだ。どんなに鍛えていたって、限界がある事を。
涙が、次から次へとこぼれ落ちるたび、エルは過ぎ去った過去を思い出した。
年老いたポタロウが難産で、結局は、仔犬もポタロウも助けられなかった事。オジサンの病気に気付けたのは手遅れになった後で、エルには、彼の痛みを和らげてあげる力もなく、オジサンは苦痛と闘いながら、そうして最期には、エルのために笑って死んでいった事……
ずっと、助けられてばかりだった。誰も、助けてあげられなかった。
エルは、無力な自分が悔しくて、ログの腕を掴んで、とうとう泣き出した。うわ言のように「ごめんなさい」と繰り返しながら、これまで胸の内に溜め込んでいた、もう届く事のない言葉が口から溢れ始めた。
ポタロウ、オジサン、ごめんなさい。
謝りたかったのに、もう謝る事が出来ないのが苦しいよ。いっぱい迷惑かけたのに、それでも笑っていてくれ、大好きだって言ってもらえてとても嬉しかったのに、俺、何もしてあげられなかった。
俺を置いていっちゃ嫌だ。俺を一人きり、この世界に置いて行かないで。
ごめんなさい、寂しくてクロエを置いて行く事が出来なかったの。オジサンの家の人が、きちんと面倒を見てくれるって言ってくれたのに、離れ離れになってしまうのが怖くて、俺、クロエを連れて逃げ出してしまったんだよ。
俺はもう子供じゃないから、一人でも生きてゆけるって、オジサンとそう約束したのに、俺、どうしてもクロエを置いていけなかったんだ――……
エルは、オジサンが死んで初めて、とても悲しいという想いのままに、頼りない少女の細い声で泣いた。