「君の腕力では無理だ。ここを出られたとしても、恐らく私は歩く事が出来ないだろう。痛みを分析する限り、私はどうやら、大腿骨辺りを負傷している可能性がある。すなわち、君がここから一人で逃げる方が現実的だ。子共でないのなら、それぐらいの事は理解出来るはずだろう。聞き分けなさい」

 煩い大人だ。そんな事、お前にいわれなくなって分かってる。

 エルは言葉を返そうとしたが、途端に悲しくなって奥歯を噛みしめた。マルクが、ギョッとした顔で彼女を見つめ返した。

「――……なぜ、見も知らぬお前が泣くのだ。いいから、早く逃げなさい」
「ッ嫌だ。だって、おっさん、まだ生きてるじゃん。生きてアリスに会ってあげなきゃ駄目だ。だって……だって、俺には、もう帰る場所はないけど、貴方には、まだ残されているじゃないか」

 マルクは口を開きかけ、掛ける言葉を失った自分に気付いて閉じた。

 なんて口の悪い子共だろうとは思ったものの、彼は、掛けられた言葉の重みを知って口を噤んだ。大切な者を失っても尚、誰かを救おうとする子供の姿に心が揺らいだ。