「そんなに踏ん張ると、筋肉への負荷が掛かり、成長に弊害をもたらす可能性が――」
「今、そんな分析している場合かッ」

 というか子供じゃないし成長期も終わってるっつうの!

 エルが怒鳴ると、マルクが不可解だと言わんばかりに眉を寄せて、「ふむ」と呻った。しばし彼は思案するように沈黙し、自分の腕を掴むエルの手へ、そっと目を向けて眉間から力を抜いた。


「本当に、私はいいのだよ。だから手を離して、君はさっさと逃げなさい」


 彼の声の響きが、若干変わったような気がした。

 ここで逃げられるかよ、とエルは顔を強がるような笑みを浮かべ、手に込める力を緩めなかった。早く抜け出さなければ助からないだろうが、彼を諦めるつもりは毛頭ない。最後まで足掻くと決めたのだ。

 マルクは、力の入らない自分の腕を、懸命に引くエルを見つめた。既に、彼の腕は痛覚が麻痺してしまっていた。締め上げ、圧迫して来る下腹部の強烈な痛みが、神経経路の一部を阻害しているのだろう、と彼は冷静に考える。