螺旋階段だけは被害を受けていないようだが、徐々に、エルのいる場所から離されつつあった。彼女とマルクが残された場所が、しだいに深い闇の底へと引きずり込まれているせいだ。

 大きくならなかった自分の身体が憎い。エルは、思わず奥歯を噛みしめた。


「……君、一体何をしている」


 不意に、一つの声が上がって、エルはハッと顔を上げた。

 目を向けた先で、マルクが咳込んでいた。彼は濁声でそう告げながら、眉間に神経質そうな皺を寄せている。

 エルは咄嗟に彼の瞳孔を確認してみたが、色素の薄い緑かかったブルーは、訝しげにこちらを見つめていた。正気なようで、ひとまずは安堵を覚えた。

「よかった、気が付いたんだな。お前、俺の事は覚えてる?」
「君とは初対面のはずだが?」
「あ、そうなんだ、それはごめん……――って違うだろ、なんだよその冷静さは!?」

 そう指摘すると、マルクがちらりと自分の状況を目に止め、「ふむ」と片方の眉を引き上げた。そこには敵意も過激な思考も見られず、先程戦闘になったマルクとは全くの別人のように思えた。