そうだ。ショーン・ウエスターは、いつも突拍子ない事を言う、まさに掴み処がない男なのだ。今更になって色々とやりたがるのは、若い時に経験する機会がなかったせいなのだろうか。ボーリングさえ知らなかった時は驚いた。

 聞いてくれ、エリス。ショーン・ウエスターは、ずっと君と暮らしていたはずなのに、彼の料理の腕ときたら今でも最悪なのだ。

 彼が、バーベキューをやりたいといったものだから、じゃあ私が教えてやる、と約束したのだ。アリスに不味い物は食わせられないからな。

 なんだ、手が暖かい……? 

 エリス、君なのか?
 

 私はそこで、目を開けた。

          ◆◆◆

 エルは止まらない崩壊を前に、焦燥していた。この地下空間も、後僅かも持たないだろう。

 マルクの身体は、ようやく上半身まで引き上げたところだった。エルが思い切り引っ張り上げようともがくほど、マルクに絡みついた電気ケーブルは、強い力で彼の身体を下へと引きずり降ろそうと蠢き、悪戦苦闘が続いていた。

 予定以上に、時間ばかりが消費されてしまっている。休憩なく全力で引き上げ続けているエルの体力も、底を付き始めていた。

「くっそー!」

 エルは、悔しさを噛みしめながら、引き上げる腕と踏ん張る足に力を込めた。

 既に地下空間で残されている物質は、マルクを飲み込んだ、半径二メートルにも満たない電気ケーブルの固まりだけとなっていた。周囲に蠢く闇に触れられた先から、電気ケーブルは力を失い、深い闇底へと剥がれ落ちる。