本当は知っていたのだ。非科学的で、根拠のない可能性だと。

 死んだ者を生き返らせる事は出来ないと知っていたが、私は、目の前に死んだはずのエリスが現れた時、悪魔にも心を売る想いで彼女の手を取ってしまっていた。

「私は、冷たい機械仕掛けの箱の世界に閉じ込められているの。だから、貴方、協力してちょうだい。私を、ここから『外』に連れ出して」

 非科学的な世界がそこに用意されていたからこそ、私は、つい奇跡を望んでしまった。
 

 けれど、もう、いいのだ。

 私は、疲れてしまった。
 

 所詮、本物の天才には敵わなかったのだろう。死んだ軍人の肉体の細胞を蘇らせて、それを戦友の身体へあっという間に移植させた、ショーン・ウエスターのような技術は持ち合わせていない。死の淵に立たされた人間の身体に、現場で迷うことなくメスを入れるような覚悟も、私には無い。

 私はただ、友人の役に立ちたかった。

 私のせいで、彼女は死んでしまったのだ。もう、取り返しがつかない。私のせいではないと励ましてくれても、彼の優しさに甘える事を、私自身がずっと許さないでいた。

 私は、これまで友人と喧嘩をした事がない。どうやって許されればいいのか、全く見当もつかないのだ。

「不器用な人ね。でも私、そういうところが好きよ。口下手でもいいじゃない。本音で話し合って、それから考えればいいのよ」

 ふと、彼女の声が聞こえたような気がして我に返った私は、――ようやく自分が、暗闇にいる事に気付いた。

 ああ、私は夢を見ているのだな。

 自分の人生の最期に、私は君の事を思い出していたのだろう。

「違うわ。あなたは、もう夢に囚われなくてもいいの。諦めちゃ駄目よ。あの人にも、アリスにだって、まだまだ貴方が必要ですもの」

 そうか、アリスがいたな。

 そういえば私は、あの子の自由研究を手伝ってやると、約束していたのだったか。

「そうよ。あの人とも話していたでしょう? 遅れてしまったけど、夏のバーベキューを手伝ってくれるって、あなた、そうも言ったわ」

 その話をしたのは、つい最近の事だ。君は、天国から全て見ていたとでもいうのか?