私はそれから、彼とたびたび言葉を交わすようになる。結局のところ私は、彼を嫌いになる事なんて出来なかった。あの男が、誰にも語れない過去を持っている事に気付いたが、語らないその優しささえも魅力的に思えた。

 ショーン・ウエスターは、良い奴だ。私が心から尊敬出来るほど頭が良く、努力家で、才能もある。気付いた時には、私は彼の少ない友人の一人になっていた。

 エリスがいて、彼がいて、私がいる。そんな季節が、何度も過ぎ去った。

 彼の話し聞かせる声が、すっかり耳に馴染んでしまった。彼のそんな言葉に対して、エリスが笑う声に耳を済ませる瞬間も幸福に思えた。三人で珈琲を飲んで穏やかに過ごす時が、私には最も心地良かったのだ。

 私が傍観者を決め込んでいると、彼はいつも「笑っていないで助けてくれよ」と困ったように微笑む。誰かに優しく微笑みかけるのは、こんなにも簡単なことだったのだと、私はその時に思い知った。何故なら私の憎まれ口にも笑みが浮かんで、ちっとも憎まれ口の効力を発揮してくれないのだから。

 私は、彼女が好きだった。出会った頃から、きっと愛していた。

 愛する者が多くなる事の喜びを、私は二人から教えてもらった。二人にアリスという娘が誕生して、父親であるショーン・ウエスターの次に、その子を抱き上げた時の感動を、私は決して忘れはしないだろう。

 私は、ショーン・ウエスターを愛した彼女の事が、世界で一番誇らしく、今でも心の底から愛している。

 だから取り戻してやりたかったのだ。ショーン・ウエスターとアリスに、もう一度、エリスと会わせてやりたかった。軍の全てを敵に回しても、奇跡のように私の元へ舞い降りてきてくれた夢世界の彼女の手を、私は断る事なんて出来なかった。