ショーン・ウエスターは、長い足で構内を闊歩する。彼は後ろを追って来る彼女に暫く気付かず、彼女に袖を掴まれてようやく、気付いて振り返る。いつも、そんな光景が目に止まった。

 私なら、すぐに彼女に気付いてやれるだろう。そんな風に彼女を待たせたりしないし、彼女が望むのなら、彼女の知らない場所へは断りもなく居なくなったりせず、心配を掛けたりもしないだろう。

 私は彼を見掛けるたびに、ショーン・ウエスターと自分を比べた。彼は奔放で、自分勝手だ。どうしてあのような男が院内でも優遇されているのか、確かに私自身も理解に苦しんだ。軍のコネクションがある、という噂の可能性もちらりと考えてしまった。

 研修が最終段階を迎えた頃、私は多忙な日々が続いた。彼女が彼に向ける眼差しが、憧れから愛に変わるまで、私はショーン・ウエスターと特に話を交わす事もなく過ごした。

 そんなある日、休憩室で寝過ごしてしまった時、私は彼と改めて顔を合わせたのである。彼は寝起きの私に、若い男の顔で微笑みかけた。

「君が居眠りだなんて、珍しいね」

 私を受け持っている教授や、友人であるエリスから話は聞いているのだと、彼は気さくなに話した。何故だか、チョコバーと栄養ドリンクを私にくれた。疲労をためるのは良くない、のだそうだ。

 実際に話してみると、欠点を見付けられないほど人の良い男のようだった。彼は、人見知りで口下手で、つい皮肉口を叩いてしまう私にも愛想良く相槌を返した。

 私は、自分が余計に惨めに思えた。

「……ここで、失礼させて頂きます。あなたのように暇な身ではないので」
「そうか。また話してくれるかな」

 憎まれ口を叩いたつもりだったが、ショーン・ウエスターは快く微笑んだ。

「君は不器用だけど、生真面目で、とても優しい人だ。友達になれたら嬉しいよ」