悪夢が具現化したような電気ケーブル群は、マルクを容赦なく飲み込もうとしているのだ。周りから崩壊する地下空間も、いよいよ狭まっていた。

 時間がない。早く助け出さないと、ここも崩壊してしまう。

 エルはマルクの腕を掴んだまま、片手でコンバットナイフを引き抜こうとした。しかし、地下空間が大きく揺れて、一瞬バランスを崩して尻餅をついてしまった。

 地下空間を飲み込み続ける闇が、底に渦を巻いて、崩れ落ちる残骸を次々に飲み込んでいるのが見えた。まるで本物の夢を覆う瓦礫が撤去されているように、周囲からじょじょに剥がされていく。

 エリスの世界は、確実に崩壊へ向かっている。夢世界の『理』にとって余分な因子は、ここで全て排除されるのだろう。

「――くそッ、マルクは排除されていい奴じゃないんだ。お前達が尊重する『生きている人間』なんじゃないのか!?」

 初めてエルと邂逅した夢の『理』は、確かにそう言ったのだ。我々は命在る者の意思を尊重する、と。

 それは、きっとマルクだって同じ事なのだ。彼は、まだ生きているのだから。