電気ケーブルは蛇のように蠢いていて、コートの上からでもハッキリと分かる感触に、エルは思わず「うぇ」と顔を歪めた。上に出ている電気ケーブルは固い癖に、中のケーブルは、まるでゴムタイプのような手触りで、大量の虫の中に手を突っ込んでいるような錯覚に陥る。

 違うよね、虫なんかいないよね?

 ひんやりとした電気ケーブルの奥を探り、腕の付け根まで埋めた時、指先が男の手を掠った。

 エルは「あったッ」と思わず声を上げ、細く骨ばった男の手を掴んだ。

「助けに来たぞ! おいッ、起きろおっさん! 擦れ違いのまま終わるなんてダメだ。そんな事したらアリスも、あんたの友達も悲しいだけなんだ。あんたには、まだ帰れる場所が残ってるんだから!」

 そう声を掛けながら、エルは両足を踏ん張って彼の手を引っぱり上げた。マルクの片腕まで引きずり出す事に成功し、続けて彼の身体までと考えて「よいしょお!」と意気込んで力を入れた。

 しかし、助け出そうともがくと、彼を飲み込む電気ケーブルの力も強くなった。どうやら、蠢いている電気ケーブルは明確な意思を持って、彼を下に引っ張っているらしい。エルは「畜生」と呻いた。

 かなりの強さで腕を引っ張っているが、マルクは一向に目覚める気配がなかった。深い眠りに落ちているようで、疑い深い眼差しや薄い唇、すっかり染みついたような眉間の皺一つにも反応がない。