深呼吸をしたエルは、地下に伸びている螺旋階段の先を確認した。

 地下へと続く螺旋階段の先は、闇に包まれていた。エルは、もしもの場合に備えてコンバットナイフが取り出せるよう構えながら、慎重に階段へと足を踏み入れた。

 進み始めてすぐ、広がる闇に点々と不規則に光が灯り始め、階段の先が見えるようになった。

 階段周囲の闇の中で、青、黄色、白と、不揃いな大きさの灯りが、夜空の星のように無数に輝いて螺旋階段を照らした。まるで、螺旋階段に沿って小さな宇宙が広がっているようにも見えた。

 足場を確認しながら、急く心を落ち着けて慎重に階段を下った。次第に階上の音は聞こえなくなり、熱くも冷たくもない、全てが始まって終わっていくような静寂の世界がエルを包み込んだ。


 エルは、手すりもない螺旋階段を、踏み外さないよう慎重に進んだ。

 その時、地上で小さな地響きが起こり、その振動が階段にも伝わって来た。エルは、大きな揺れが来るかもしれないと慌てて階段にしがみついたのだが、落ちても大丈夫な距離なのか、と目下を確認した時、崩壊しかけている地下空間が彼女の目に止まった。

 螺旋階段の終わりには、今にも闇に沈んでしまいそうな地下空間が残されていた。地下は、周囲から闇に呑まれている真っただ中だったのだ。

 そこには膨大な量の電気ケーブルの海が広がっており、床は視認する事が出来なかった。絡みついた大量の電気ケーブルの中心地に、一人の人間が埋まっているのが見えた。白衣の襟と、目を閉じた細身の中年男の顔が覗いており――それはマルクだった。