「なぁ、さっき、あの女なんか言ってなかっ――」
「よし、ここは任せた!」

 塔に入った瞬間から、既に意識を目先のマルクへと切り替えていたエルは、その場にログを残して走り出した。螺旋階段は地下に向かっても続いており、生きている人間の気配を感じていたから、そこにマルクがいる確信があったのだ。

 話も聞かず走り出したエルを見て、ログが舌打ちした。彼は、螺旋階段へと向かうエルの背中に声を掛けた。

「おいッ、あまり勝手に動き回るな!」
「動かないと目的を達成出来ないじゃん、時間がないんだから別行動を取った方が手っ取り早いって! 『エリス・プログラム』は任せたからね!」

 ログは渋るような表情を見せたが、少し考えて「……まぁ俺の方が早く片付くか」と、自身の任務に取りかかるべく駆けた。

 エルは一度、頭上高くどこまでも続く螺旋階段を仰いだ。きっと、この先に本物の『夢人エリス』が隠されているのだろう。機械の夢世界に覆われて、今は辿り着く事が出来ないけれど、全てが終われば今後こそ彼女を助けに行けるのだ。