あれはエイリアン物だったが、生々しい粘膜が気持ち悪く、人間が食われていくシーンで何度も悲鳴を上げた過去を思い出した。思わず生理的な嫌悪感で逃げ出したい衝動も込み上げたが、エルは両手でコンバットナイフを支え、化け物を受けとめた状態で両足を踏ん張った。

 化け物の歯で、ナイフの刃がギリリと音を立てた。こいつが口を閉じたら、ナイフの刃は砕かれてしまうだろう。

 スウェンからの預かり物を壊されてなるものか。そう考えている間にも、別方向から化け物が生え始めている事に気付いて、エルは、時間のロスを覚悟でコンバットナイフの柄を掴む手に力を込めた。

「……ッ、ログ!」

 エルは目の前から視線をそらさないまま、塔に向かって走り続けているであろうログに聞こえるよう腹の底から叫んだ。

「プログラムの破壊が優先だから! 絶対振り返るなよッ、構わず走れ!」

 少しでも早く、ログは塔へと辿り着かなければならないのだ。エルは、ログが目的の優先順位を理解していると分かって、彼の様子を確認する事はしなかった。
この旅の中で信頼しているからこそ、了承の言葉も合図も必要なかったのだ。

 頭上から爆音が響いた。スウェンが、ロケットランチャーで応戦しているようだ。エルは、コンバットナイフを噛み砕こうとする茨の化け物の腹を思い切り蹴り上げると、素早く武器を取り返した。スウェンから預かったナイフを壊されてたまるものかと、改めて意気込み、体勢を変えつつ柄を持ち変える。

 時間がかかろうが、こいつらに勝って、無傷で塔を目指してやるわ!
 
 その時、前触れもなく大きな手がエルの頭を押さえつけた。