地中から生えて聳え立った黒い鉄の茨の下には、二メートル程の空間が開けており、エルとログは、そこから塔へ向けて駆けた。

 エリスは、スウェンとセイジに夢中で、こちらの動きには一切気を払っていない様子だった。エリス自身は、塔の中に大事な物があるとは考えていないのかもしれない。彼女は、人工夢世界の『夢人』である事にさえ気付いていない可能性もある。

 黒い鉄の茨を半分まで進んだところで、頭上から蛇を模した茨の赤い化け物が噴き出した。

 エルが攻撃態勢を構えるよりも早く、ログが彼女を後ろにかばい、強靭な腕でその化け物を薙ぎ払った。

「じゃれてる暇はねぇぞ。俺たちの目的を忘れるな。俺が援護する。とにかく突っきれ!」

 出来るだけ速度を落とさず、ここを切りぬけろという事だろう。走りながらログが大きめのコンバットナイフを引き抜いたので、エルも同じくコンバットナイフを右手に構えた。

 頭上から牙を剥く茨の化け物を切り払いながら、エルは、出来るだけ走る事だけに集中した。スウェンとセイジ、ホテルマンが闘っている音に気を取られ、振り返りそうになる自分を抑える。ログが『エリス・プログラム』を破壊すれば、彼らに対する攻撃も終わるのだ。目的の優先順位を誤ってはならない。

 不意に、頭上から茨の化け物が生え、エルに牙をむき出して襲いかかった。エルは首の後ろを狙われた事に気付くと、咄嗟に駆ける足を止めて踵を返し、化け物の口をコンバットナイフで受けとめた。

 大きく口を開いた化け物の歯は、隙間なく円形の口内を埋め尽くしていた。

 うげぇ、まるでオジサンが見ていたホラー系の映画……