エルは、クロエの頭を撫でてから立ち上がった。クロエに、どうにか微笑み掛けようと努力したが、うまく笑えなかった。

 ああ、なんて残酷なんだろう。俺は彼女に、最期まで傍にいてと望みながら、結局は彼女を置いていく未来を選んでしまったのだから。

「よし」

 スウェンが息を吸い込んだ。彼はロケットランチャーを用意すると、エリスを見上げて笑い掛けた。

「まずは、僕と、この大きなセイジの二人が相手だよ。こう見えても、僕達は鬼ごっこが得意な大人だからね。お嬢さん、しっかり僕らの事を相手にした方がいいよ」
「うふふ、面白い人ね!」

 エリスの焦点が、初めて人間を特定したように禍々しい輝きを増し、好奇心たっぷりの瞳でスウェンを凝視した。

 スウェンは、ログとエルに一つ肯いてみせると、セイジを伴って駆け出した。


 スウェンとセイジは、鍛え上げられた脚力で茨に足を踏み込むと、鉄の茨の上を目指し駆け上がり始めた。黒い鉄の茨に根をつけたままの、口を持った赤黒い蛇のような化け物が口を開き、二人に襲いかかる。

 黒い茨に繋がる化け物の体表は、両生生物のように滑っており、先端部分についた大きな口には喉の奥まで無数の黄色い歯が付いていた。噛み砕こうと襲いかかる口だけの姿はおぞましかったが、彼らの身体は本物の両生類よりも脆く、噛みついて来るスピードに気を付けていればナイフや銃弾も有効だった。

 しかし、スウェンとセイジは、すぐに問題点にも気付いていた。赤黒い茨の化け物が植物のように次々と生え変わる事だ。そのスピードは驚異的で、切り裂かれた化け物の下から二、三匹が同時に飛び出してくる事もあり、ホテルマンが投げた銀のナイフを口で受けとめて噛み砕くほど、歯、顎共に強靭らしい事も察せた。