ログと共にエルが行動する事について、スウェンが一同の意思を目で確認し、一つ肯いた。

「分かった。ここは僕とセイジ、ホテルの彼の三人で時間を稼ごう。ログは『エリス・プログラム』本体を。エル君はマルクを――でも、いいかい、エル君。マルクが既に手遅れであった場合は、潔く諦めて欲しい」
「そうだね――」

 エルは一呼吸置いて、ニッと笑みを浮かべて見せた。

「――大丈夫。俺は、そこまで子共じゃないから」

 けれどエルには、間に合う自信があった。ホテルマンから、マルクがまだ生きていると知らされた事も大きいが、根拠のない強い予感が彼女の背中を押していた。急げばきっと間に合う。この手でマルクを救えるのだと、突き動かされるような気力が湧き上がっていた。

 ここで死ぬのは、本来マルクの運命でないはずなのだ。だから、運命の神が味方してくれているのであれば、きっと、マルクを助け出せるようエルを導いてくれるはずだ。

 エルは、マルクを失いたくなかった。彼に伝えたい事がある。

 先程の夢の中で見た『ナイトメア』の記憶には、若き日の所長の姿もあった。大切な友人がいるのだと所長は語り、自分の娘もいつか、彼を好きになってくれるといいと笑っていた。

 エルは、もう元の世界に戻る事は叶わないが、マルクは違う。待ってくれている人がいて、帰るべき場所が残されている。子供のような理屈かもしれないが、このまま悪役一つで、死に別れさせてしまう未来を想像したくなかった。

 彼が全部悪い訳ではない。人工夢世界のエリスの手を取った時、彼は、こんな未来なんて想像してもいなかっただろう。