すると、エリスが子共のような表情で小首を傾げた。

「マルク？　さぁ、どうかしら……起きたばかりで、まだ頭がはっきりとしないの。さっきまで、誰かが私のそばにいてくれていたような気がするのだけれど、目が覚めたら、どこにもいないのだもの」

　ああ、そうだ。マルクの件もあったのだ。

　エルは、今の状況を頭の中で素早く整理した。ホテルマンの話が本当であれば、こちらの世界から脱出できる生身の生命体は、精神体で入っているスウェン達の人数から換算すると三人。アリスとクロエを含んでも、あと一人は助け出せる計算になる。

　マルクは生きているの？

　心の中で問いかけながら、エルはホテルマンを横目に見た。彼は、またあの人間の話ですか、といわんばかりに呆れた眼差しを寄越したが、諦めたように短い息をつくと、静かに目を伏せて肯定の意を示した。


――放っておきなさいといっても、無理な話なのでしょうねぇ、きっと。ええ、彼は生きていますよ。仕方がありませんが、『主』である貴女様が望むのであれば、私は従います。


　そう告げて、ホテルマンが僅かに微笑を浮かべた。どこまでもついてゆきましょう、と静かな声色で囁く。