彼女本人である事に変わりはない。しかし、彼女は自分の使命を守るために、歪んだ人格を外へと追い出して人工夢世界の内側に閉じこもった。だから、『人工夢世界のエリス』は記憶も思考も不安定で、そこには本来『夢人』が持たない破壊衝動もある。
――これからのことを考えれば、機械本体を壊せば、全てか終わると考えてもらっていた方が動きやすいでしょう。
ホテルマンがそう続けたので、エルは心の中で、そうだね、と相槌を打っていた。
ずっと疑問に思って考えていたが、やはりログの破壊の力は、本物の『エリス』には全く効力がないのだ。『エリス・プログラム』を破壊すれば、彼らの危機は一時的に脱する事は出来たとしても、問題がそこで解決に至る訳ではない。
『夢人』であるエリス本人をどうにかしない限り、危険な状況は続いてしまうという事だろう。エルが頭の中で問いかけると、ホテルマンは、視線を動かさないまま僅かに肯いた。
――残念ながら、エリスは自身の暴走を止められません。彼女は新しい記憶から喰い続けており、ほとんど正気でいられる時間も少ない。狂った『夢人』は、自分の存在意義を忘れ、『夢の核』に収まった思い出に引きずられて、物質世界を目指すのです。
その時、人工夢世界の主であるエリスが、こちらを見てにっこりと微笑んだ。
ドキリとして、エルは思考を止めた。エリスは、ようやく目の前に佇む人間の数を把握したような顔で、小首を傾げてみせた。
「ああ、そういえば私、彼との約束を待っているんだったわ。外に連れ出してくれるって、あの人はそういっていたもの」
脈絡の付かない言葉を紡いだエリスは、外見よりも幼い無邪気な微笑みを浮かべて、誰が相槌を打ったわけでもないのに「そうでしょう、ええ、そうですとも」と手を叩いて笑った。
――これからのことを考えれば、機械本体を壊せば、全てか終わると考えてもらっていた方が動きやすいでしょう。
ホテルマンがそう続けたので、エルは心の中で、そうだね、と相槌を打っていた。
ずっと疑問に思って考えていたが、やはりログの破壊の力は、本物の『エリス』には全く効力がないのだ。『エリス・プログラム』を破壊すれば、彼らの危機は一時的に脱する事は出来たとしても、問題がそこで解決に至る訳ではない。
『夢人』であるエリス本人をどうにかしない限り、危険な状況は続いてしまうという事だろう。エルが頭の中で問いかけると、ホテルマンは、視線を動かさないまま僅かに肯いた。
――残念ながら、エリスは自身の暴走を止められません。彼女は新しい記憶から喰い続けており、ほとんど正気でいられる時間も少ない。狂った『夢人』は、自分の存在意義を忘れ、『夢の核』に収まった思い出に引きずられて、物質世界を目指すのです。
その時、人工夢世界の主であるエリスが、こちらを見てにっこりと微笑んだ。
ドキリとして、エルは思考を止めた。エリスは、ようやく目の前に佇む人間の数を把握したような顔で、小首を傾げてみせた。
「ああ、そういえば私、彼との約束を待っているんだったわ。外に連れ出してくれるって、あの人はそういっていたもの」
脈絡の付かない言葉を紡いだエリスは、外見よりも幼い無邪気な微笑みを浮かべて、誰が相槌を打ったわけでもないのに「そうでしょう、ええ、そうですとも」と手を叩いて笑った。