目の前に現れた少女の姿をした『彼女』を、現実世界に出してはいけない。

 そう一同が共通の理解を示したところで、ログが苦々しく顔を歪めた。

「……おい、ホテル野郎。『出口』が開いちまうまで、後どのぐらい猶予があるんだ」
「『外』では、既に七割の作業が完了しています。恐らく、こちらの世界で換算すると、時間の猶予は一時間もないでしょう。書き換えられ続けているデータの修正値が、八割を超えた時点で『出口』の命令権が安定しますので、そのタイミングで出力値を最大に切り替えるつもりかと。『外』の人間は、意思を持った『エリス・プログラム』の存在を把握していませんから、制御システムがほぼ戻り次第道を繋げるものかと予測されます」

 待てコラ、とログが鼻白んだ。

「データの書き換えとか、よく分かんねぇぞ」
「――ああ、失礼致しました。少々『私』も協力しておりましたもので、つい」

 まるで、現場を見ているような言いようだと感じさせる雰囲気だったが、時間がない事は誰もが知っていたので、ログも追及するような行動は起こさなかった。