おおまかに事を理解したログが、頭をかいた。

「要するに、人工知能の本体を壊すだけの簡単な作業じゃなくなったって事だろ。あの人の姿をしたやつをかいくぐって、塔の中に行かなきゃならねぇって訳だ」
「実体化した人工知能体なんて、当初の予定にはまるでなかった展開だけどね。――アリスにはもう少し、僕らに付き合ってもらわなきゃならない。それは確かだ」

 スウェンは、ホテルマンへ目を向けた。

「君は、こうなる事を知っていたんだね? だから、アレが目覚める前に事を終わらせろと、アリスを助け出せと僕らを急かした。違うかい?」
「――いいえ。物事の順番が少し変わっただけです」

 あなたの推測は根元が違っている、と指摘するようにホテルマンが首を小さく左右に振って見せた。

「過程はどうであれ、結局のところ『エリス』は目覚めてしまう事は決まっていました。そもそも、先にアリスを外に連れ出せと私は一言も言っておりません。戦士が一人欠けてしまっては、困りますから」

 ログが、エリスを警戒したまま「どういう事だ」と訊いた。エリスは目覚めたばかりのせいなのか、こちらの人間を順繰り見ては、まるで認識出来ていないように同じ動作を、ゆっくりと繰り返していた。

 ホテルマンは彼らに目は向けず、エリスの向こうの塔を眺めながら、抑揚のない落ち着いた口調で続けた。