「つまり、この世界を、うっかり悪夢として見ている者はもういないという事かい?」
「囚われていた意識体については、剥がされていっている途中ですよ。上空を覆う、あの曇空がセキュリティーの壁のようになっているので、完全に崩れる頃にはいなくなっているかと」

 意識のないアリスを抱きとめたまま、スウェンが「なるほど」と無理やり口角を引き上げた。

「状況は最悪ではないという訳だね。ハイソン君達は事を上手く進めてくれていて、『エリス・プログラム』に挑んで命令権を取り戻しつつある。そして、その根源である人工知能体の、あの『エリス』は、自分が用意していたはずの脱出経路を見失ったって事だ」

 説明を受けたログとセイジが、半ば眉を寄せた表情をスウェンへ向けた。セイジが、確認するように「つまり」と躊躇しつつ言葉を続けた。

「私達は、最悪な状況については回避出来た、という事だろうか?」
「その通りさ。もしハイソン君達が間に合わなかったら、彼女は外に出てしまっていただろうからね。――人格を持った『エリス・プログラム』が、外の世界に出てゆくつもりらしい事は信じたくないけれど、もう常識がどうのとも言っていられないだろうし」