大蛇に身体を捕らわれた後の記憶が、スッポリ抜けてしまっている。

 エルはつい先程の記憶を辿り、昔『ナイトメア』が身体を使っていた時の事を思い出して「なるほど」と口の中で呟いた。オジサンと出会った頃の記憶があまりないのも、そう言えば『ナイトメア』が出ていたせいだったか、と遅れて思い至る。

 激しく運動したように身体は軋むが、どうやらホテルマンに助けられたらしいとは察せた。気付くとエリスが降臨していた訳だが、今は、記憶にない時間に自分が何をしていたのか、という些細な問題を気にかけている暇はない。

 エルは、スウェンとログ、セイジの大きな後ろ姿とエリスを眺めながら、声を潜めてホテルマンに再度尋ねた。

「それで、どうなの。彼女は別人?」
「同じエリスではありますが、私達の求める『彼女』ではない、という事です。『エリス・プログラム』が彼女を覆い隠して、一人歩きしてしまっているともいえます」

 ホテルマンとエルは、エリスを見据えるログ達に悟られないよう、視線を合わせた。