ホテルの階段を上りきると、四方五メートル程の灰色の空間が開けた。そこは剥き出しのコンクートで出来ており、光りは一切差していないはずだが、まるで昼間のように視界は良好だった。

 入口の正面には、装飾の施された銅製の西洋扉が一つあった。最後に到着したエルは、体感的ではない寒気を覚えて、思わずボストンバックを引き寄せた。ボストンバッグから顔を出したクロエも、髭を揺らしながら興味深げに匂いを嗅いでいた。

「なんだか、怖い感じがする」
「仮想空間内に、意図的に造られた『施設』だからだろうね」

 スウェンが答え、ゆっくりとドアノブを回した。

 扉が開かれると、そこには窓も何もない真っ白な広い空間が広がっていた。部屋の中央には、二メートル程の筒状の、厚みのあるガラスが中央にはめられた機器が置かれていた。

 筒状の機器の中には、気泡をたてる黄緑色の液体が入っているようだった。設置された機械からは様々な電気ケーブルが伸びており、規則正しく脈打つ機械音が部屋中に鳴り響いていた。