大蛇の巨体が地面に叩きつけられ、大地が振動した。

 空中戦を終えたエルが、崩れた建物の一角に着地した。彼女はコートについた埃を丁寧に払うと、地面に転がる大蛇の群れに侮蔑の眼差しを向けやった。続いて、他の大蛇が一定の距離からこちらを窺っている様子を確認すると、短い息を吐いた後、近くにいたセイジを見降ろした。

「こんな所で油を売っている暇はありませんよ。あの男はアリスを傷つけられないのですから、さっさとあなたが相手をなさい」
「え……?」

 戸惑うセイジの返答を求めず、エルは続いて、赤い瞳をログへと向けた

「アリスの事は一旦私が引き受けますので、彼が相手をしている間に、さっさとプログラムを破壊しに向かって下さい。私は、夢世界の物以外に対しては戦力外ですからね、『愛想のない大きなお客様』」

 そこで、ログが途端に合点がいったという顔をし、エルを指差した。

「『大きなお客様』ってお前ッ、ホテル野郎か! なんでそいつの身体に――」
「いちいち口煩い方ですねぇ。こちらの方が早いと判断したからですよ」
エルの顔で、ホテルマンが怪訝な表情を作った。ひっそりと寄せられた眉や、胡散臭いように控えめに尖らせられた唇の具合は、ホテルマンそのものだった。

「ほら、貴方達の上司も、ようやく到着されましたよ」

 指摘され、ログとセイジは促されるまま後方へ首を回した。そこには息を切らせたスウェンが、こちらに向かって駆けてくる姿があった。