エルは、巨大な大蛇を睨み据えた。蛇は黒い瞳をしており、その体表はタイヤのゴムのように艶のない黒をしていた。

 セイジの戦闘に巻き込まれないよう配慮しつつ、エルは跳躍しながら地上を駆け抜けると、別のビルへ噛みついた大蛇の頭に飛び移り、その脳天にコンバットナイフを突き刺した。

 深く突いたつもりだったが、ナイフの長さが足りなかったようだ。大蛇が、ビルから口を離して暴れ出した。

 こいつらには、痛みという感覚は備わっているのか?

 暴れ狂った大蛇の頭から振り落とされながら、エルは、ふとそんな事を考えてしまった。こちらに顔を向けた大蛇の瞳は混沌のような漆黒で、痛みというよりは、再起不能にされてたまるかという、造られた物が持つ、本能的な強い不快感を覚えているような気もした。

 所詮形だけなので、蛇としての性質が微塵にも設定されていない可能性はある。顔だけ見ると、顔の長い、大きな蜥蜴に見えなくもない。

 エルは地面へと落下しながら、こちらに向けて大きく口を開いた大蛇の喉奥に向けて、残り少ない銃弾を全て打ち込んだ。

『連れ出してやるんだよ、ここから。彼女は、私に生きたいと言ったんだ』

 対地上用戦闘機MR6に搭載されているスピーカーから、マルクの言葉が流れた。大蛇の口内目掛けて全ての銃弾を放ったエルは、その声の直後、後方でガチリ、と装弾される音に気付いて顔を上げた。