「違うんだ。通常の思考能力の他に、頭に単独的な意思があるのか、ということだよ。潜在意識や多重人格も考えられるんだけれど、どうやら肉体にも関係がないらしいし」
「あの、一体何の話しをしているんですか?」

 ハンソンは、たまらずに訊いた。

 若き所長は、暫く一人で考え込んでいた。彼は数分ほど黙り込んだあと、唐突に独り言のように話し出した。

「脳に『夢』という現象を媒介にする、デジタルとは全く異なるネットワークがあるとしたら、どうなのだろうな……『彼』が彼女の夢を見ているのか、彼女の方が『彼』の夢を見ているのか――その全く異なる別のネットワーク上で交わされる『意思』とは、一体どこから来ているのだろうか?」

 ハイソンは言葉が出て来なかった。所長は顎をさすり、視線を別の方へ向けている。

「変だろう? 夢の中で『彼』は言うんだ。一つ一つ進めるごとにヒントを落として、そして預言師の如く忠告する。この世界にも『陰』と『陽』があるように、我々はそれぞれ対極で決して会わず、触れあえず、それは理を外れて手に負えなくなった場合の最終手段であるのだと」

 語る男の口調は、ひどく落ち着いていた。