「アリスには護衛が必要なのだから、ここでバラけてしまうのは良くないと思う。大きな敵との対峙は、二人一組以上がルールだろう、ログ? 一人が塔に行って欠けてしまうと、二人で兵器とやりあうとなったら彼女を守る人間がいなくなる」
「チッ、うちの隊長は遅刻かよ」

 そう言って振り返ったログが、僅かに目を見開いた。

 エルとセイジは、ログの反応に気付いて後方の様子を見やった。そこには、ログのジャケットを掛けられたアリスがおり、彼女は上体を起こして、大きな青い瞳をこぼれんばかりに開いてこちらを見据えていた。

 エルは、実物のアリスに目を止めて、知らず息を呑んでしまった。

 本物のアリスは、まるで夢物語から出て来たような小奇麗な少女だった。大きく波打つ長い金色の髪、大きな青い瞳、可愛らしい袖の短い薄地からは細く白い腕が伸びていて、女の子らしいフリルのたっぷり使われた桃色のスカートが、座り込んだ地面に広がっている。

 けれど同時に、エルは一つの事にも気が付いていた。

 アリスの強い視線を受けとめた瞬間、幼い彼女も『ナイトメア』や夢世界の『エリス』、そして『エル』が置かれている状況や事情を知っていると直感した。本能的な感覚で、アリスは、こちら側の人間なのだとエルは悟った。


「……お願い、※※※。死んでしまわないで…………」


 アリスが大きな瞳を潤ませて、口許に手をあて細い声を上げた。――勿論、こちらまで届かないはずの声だったが、エルの耳は、不思議とそれを聞き取ってしまっていた。

 今にも泣きそうな顔で、祈るように口許に手を当てるアリスは、エルの本当の名前も知っている。エルはそれを知って、思わず「ああ」と口の中で呟いてしまった。

 彼女もまた、今回の件に関してエルとは違った役者の一人として、自分で自分の役割を選んだのだろう。