眠りの中で、不意に、抱き締めていた『エリス』の温度のない身体が、じょじょに離れてゆくのが分かった。待って、と声をかけたくても、深く眠り続けるアリスの身体は動いてくれなかった。

 母と同じ気配を持った『夢人』が、遠ざかっていく気配に涙が溢れた。

 それでも、アリスは一人で眠り続けた。完全に『エリス』が起きてしまうまで、眠り続けるのだろう。意識は覚醒しているのに、誰の役にも立てない事が悲しかった。

 不意に、夢から覚める気配がした。

 暖かな掌が頭にあてられ、それは、開かない彼女の瞼からこぼれる涙を拭った。


――頑張ったわね、可愛い子……大丈夫よ、私が、きっと何とかしてみせるから…………


 とても暖かい声だ。暖かくて細い、こんなにも優しい手をアリスは知らなかったから、思わず「お母さん……?」と口にしていた。

 ふっと、優しい人の温もりが消えた。

 無数の音が彼女の聴覚を刺激し、五感が急速に現実へと引き戻され始めた。身体が鈍りのように重く感じて、アリスは、静かに目を開いた。

 目を開いた先にあったものは、荒廃した町だった。セイジ兄さんが走る後ろ姿があり、こちらにジャケットをかけて、ログ兄さんも駆け出すのをアリスは見た。

 ログ兄さんの向こうに見えた華奢な黒コートの背中を見て、アリスは「あ」と声を上げた。夢で見る事しか叶わなかった『あの子』がいたのだ。

 あの子に向かって巨大な瓦礫が放たれると同時に、ログ兄さんが必死な形相で突進しながら「セイジ!」と指示するように怒号した。セイジ兄さんが「分かってるッ」と返して、華奢な『あの子』に向かって「何を突っ立っているんだエル!」と叱るように吠えた。