「エリスと一緒に、君を外に連れ出そう。だから、もうしばらく待っていてくれ。きっと、きっと君に母親を返してみせるから」

 母親を、返す……?

 そんな事、出来るはずがない。マルクおじ様は、一体何を言っているの?

 注射で薬を打たれた後、アリスは、また眠りに落ちた。彼女はそこで、ようやく『エリス』に会う事が出来た。

 初めて対面するその『夢人』は、母親と全く同じ姿をしていた。彼女の姿と心を写した『エリス』は、迷子の子共のような顔をして闇の中に佇んでいた。

「――お母様、どうか、私と一緒に眠って下さい」

 アリスは、自然とそう呼び掛けてお願いした。

 少しずつ狂い始めている『彼女』が、その言葉の意味を理解し、エリスの娘であると認識出来たかは定か出来ないが――、『エリス』がぼんやりとこちらを振り返り、目尻に涙を浮かべてこう言った。

「私の事を、知っているの? あなたが、私が待っていた人なの?」

 すると、ふと手を伸ばして来た『エリス』が、アリスをぎゅっと抱きしめて子供のように泣き始めた。「どうしていなくなってしまったの」「私、あなたの事を愛していたのよ」「いなくならないでエリス……」と何度も呟いた。

 深い悲しみに打たれて、アリスも泣いてしまった。

 私だって、お母様をもっと知りたかったのに。こうして抱き締めて、寂しい夜を一緒に過ごして欲しかったのよ。

 アリスは、母と同じ姿をした、母ではない夢世界の住人の温度のない身体を抱き締めた。寂しさばかりが募り、二人は無き疲れたように共にどこまでも深く眠りに落ちていった。

 それが永遠には無理である事を、アリスは知っていた。