いつからかアリスは、夢でしか見る事の叶わない彼女が好きになっていた。強い心と姿勢に「お姉さんみたいな人」と憧れた。彼女が『夢人』のエリスを尊んで愛してくれたように、アリスにとって、エルは少し歳上の憧れの強い女の子になった。

 あの子は、どんな声をしているのだろう。今は、何をしているのかな。今日も、彼女は笑っているのだろうか。
 
 生き続けて欲しいと願うようになったのは、いつからだったか。

 アリスは、彼女と友達になってみたかった。可愛い女の子の服を着て、一緒に人形遊びをする姿や、いつか女友達として笑いあえる未来を想像したりした。

 アリスは、母の夢に一番近くに在る事は出来ても、エルのように『力』の均衡を取ってしまえるような素質がある訳ではない。いつも母が遺してくれた夢と、母があの子と繋いでくれた縁を辿って、あの子に関わった人間の記憶を少し見られるだけ。

 けれど、アリスの願いも虚しく、母が彼女に遺していった『悪夢が』現実に近づいて来た。

 母がアリスに言い聞かせたその未来は、『夢人エリス』の為に、あの子が犠牲にならねばならないという事だった。多くの人が死ぬなんて未来は母から聞いていないが、その時点でもう、結末を除いた何もかもが大きく狂い出していると悟った。

 狂った人工夢世界の『エリス』は、止まらない。

 夢世界の『エリス』もまた、発動してしまった自分を止める事が出来ない。

「お願い、神様。私に出来る事があれば、どうか力をお貸し下さい。少しでも、あの子の手助けがしたいの……」

 一人きりの家で、神に祈ったある日、アリスは最悪の未来の光景を『夢』に見せられた。

 物質世界に誕生した『エリス』にエネルギーを吸収されて人間が干からび、研究所にいるハイソンおじ様達も、生み出された怪物に喰い殺されてしまう。マルクおじ様も、ログ兄さんも死んでしまい、あの子も死んでしまう……