「えっと、その……不思議な事、と突然言われてもよく分からないのですが、その、超能力とか、非科学的に起こる未知な現象についての事でしょうか?」
「そうだなぁ、非科学的に目の前で派生する現象なら、まだ簡単なんだけどなぁ」

 そこで、その男は開いていた資料をパタリと閉じた。

 意思のこもった年上の男の瞳が、横目にハイソンを見据えた。

「無から有は生まれない。しかし、何もない場所から問いかけがあり、はっきりとした意思を感じ、意識の戻った瞬間に『有』となって目の前に存在してしまっていたら、それは、どういう現象に値すると思う?」
「超現象、ですかね……?」
「さあ、私にも分からない事ばかりでね」

 そう言って一瞬ばかり伏せられた瞳に、疲労が垣間見えたような気がした。しかし、ハイソンが口を開く前に、彼が再び尋ねた。

「――君は、今どういった研究を?」
「今は、脳波をテーマに調べています」
「そうか、脳波……」

 彼は、ちょっと考え込む様子を見せた。

「脳に意思はあると思うかい」
「意思、ですか? さあ、どうでしょう……脳は記憶や思考を司ってはいても、『意思』は人間の思考そのものではないでしょうか。心や意思は形として見えませんが、僕は、人の心が『脳』だけに宿るとは考えられません」