オジサンは、教える時以外は戦闘について語らなかったし、自分がどのように生きて来たのかも話さなかった。ただ、体術を教えられている時に触れる肌や、眼差しや、空気が一変するような気迫が、この人は本当の戦場を何度もくぐり抜けて来たのだろうと、エルに感じさせたのだ。

 次のミサイルが来るのではないかと瓦礫に身を隠したが、続けて発射される気配はなかった。

 エルは、戦闘兵器がミサイルをすべて発射した後、次のミサイル弾が補充されるまでには少し時間がかかるのでは、という事に気付いた。

 考えてみれば、現在、戦闘兵器の両肩には二つのミサイル砲が装備され、八発ずつの砲口が確認出来るが、――最初に撃ったミサイル砲はまだ消炎を上げているばかりで、次の砲弾の準備は整っていない。

 砲口から直接攻撃すれば、内部にもダメージを与えられるはずだろう。一か八か、やってみよう。
 
 銃弾一つで通用するかは分からないが、試してみる価値はある。エルは大きな呼吸を二回行った後、瓦礫の影から飛び出した。

 走り出してすぐ、エルは、操縦席のマルクの様子がおかしい事に気付いた。血走った瞳はほとんど白目を向いており、顔の皮膚の下に青筋のような無数の盛り上がりもあった。泡を吹く口から見えたのは、銀色の接続部を持った数本の電気ケーブルで、そこからもオレンジ色の液体がこぼれていた。

 おぞましい光景に、エルの足が僅かに怯んだ。

 そもそも、彼からはあまり生きている気配がしないのは何故か。そう考えて、エルはゾッとした。


 アレは一体なんだ? 死んでしまった人間ですらない印象がするあの男は、一体何者なのだ?


 当初に気付けなかったのは、エルが、マルクという男を知らなかったせいだろうか。改めて冷静に見つめてみると、ガラス越しに操縦桿を握る今の男の姿は、明らかに不自然だった。