とはいえ、逃げているばかりでは意味がない。

 エルは、テレビ映画に出てくるような空想上の戦闘兵器――実際は構想と製造まで進められた事のある対地上用戦闘機MR6だが――の大きさと、破壊力を一通り確認した後、小さく息を吸い込むと、一瞬の隙をついて、その機械の腕を両足で蹴り飛ばした。

 戦闘兵器の強度が、ビリビリと足に伝わって来る。生物タイプの敵とは違い、固いなとエルは忌々しく舌打ちした。

 戦闘兵器の腕に絡みついていた電気ケーブルの一部が破損し、銀色の繋ぎ目が解け、オイルのようなオレンジ色の濃厚な液体が噴き出した。匂いは、錆とオイルが入り混じった強烈な異臭だったが、エルが顔を顰める暇もなく、攻撃を受けていない方の腕が横から繰り出された。

 エルは、敵の攻撃を紙一重で避けると、身体を翻し、戦闘兵器の機体を足場に利用して宙へ躍り出た。

 上空から見降ろしても、巨体をした戦闘兵器の威圧感は変わる事がなく、攻撃の隙も見られなかった。

 しかし、先の攻撃で、エルは一つの事も実感していた。バカでかい戦闘兵器とはいえ、電気ケーブルで膨れ上がった装甲は、完全無敵ではないという事だ。衝撃を与えた際、内部に軋みが走ったのを靴の裏で感じていた。

 まずは、敵にどの攻撃が有効で、どこまで破壊が可能であるかを見極める必要がある。

 エルは、空中に浮かび上がった一瞬にそう考え、自身の身体が落下を始めるよりも早く、腰元から銃を引き抜くとロックを解除して発砲した。銃弾でどうにか出来る相手ではない事は予想していたが、銃器による攻撃の効果を確認すべく、エルは、ぎりぎりの距離まで弾を撃った。

 銃弾は、戦闘兵器の電気ケーブルを貫き、コード同士を結合させる銀色の部品を砕いた。しかし、戦闘兵器本体の装甲は、火花を散らして銃弾を弾き返してしまう。操縦者であるマルクを守る円形のガラス窓も防弾性で、小さな銃では傷一つ入れる事が出来なかった。